台風の影響で屋外作業が 出来ないため、早めに帰ってくると、
NHKからCDが届いていた。
森繁久弥の歌唱集だ。
知床旅情が流行った頃に彼のLPを買って以来のことである。
森繁を好きになったのは、思い起こせば、小学校の頃、
「日曜名作座」の「ビルマの竪琴」を聴いてからである。
このLPによって、「行春哀歌」を知り、覚えた。
以前に朗読のCDは手に入れてあった。この中に、「行春哀歌」の朗読もあった。
高校の同級生で、京都の地で結婚し、暮らしていた友人がいた。
すっかり都になじんだ彼に、いつか京都中を案内して貰う約束をしていたのだが、
いつしか年月は過ぎ、実現出来ないまま、彼は急逝してしまった。
夏、彼の霊前に「行春哀歌」の森繁の朗読を捧げた。
歌詞は、旧制高校時代の寮歌であるが、
心情がぴったりであった。
静かに来たれなつかしき
友ようれひの手をとらん
くもりてひかる汝が瞳に(ながまみに)
消えゆく若き日はなげく
われらが影をうかべたる
黄金の盃の美酒は(こがねのつきのうまざけは)
見よ音もなくしたゝりて
にほへるしづくつきむとす
友ようれひの手をとらん
くもりてひかる汝が瞳に(ながまみに)
消えゆく若き日はなげく
われらが影をうかべたる
黄金の盃の美酒は(こがねのつきのうまざけは)
見よ音もなくしたゝりて
にほへるしづくつきむとす
げにもえわかぬ春愁の
もつれてとけぬなやみかな
君が無言のほゝえみも
見はてぬ夢のなごりなれ
もつれてとけぬなやみかな
君が無言のほゝえみも
見はてぬ夢のなごりなれ
かくも静かに去りゆくか
ふたつなき日のこのいのち
うたへる暇もひそびそと
うするゝかげのさみしさや
ふたつなき日のこのいのち
うたへる暇もひそびそと
うするゝかげのさみしさや
あゝ青春は今かゆく
暮るゝにはやき若き日の
うたげの庭の花むしろ
足音もなき「時」の舞
暮るゝにはやき若き日の
うたげの庭の花むしろ
足音もなき「時」の舞
友よわれらが美き夢の
去りゆく影を見やりつゝ
離別の酒を酌みかはし
わかれのうたにほゝゑまん
去りゆく影を見やりつゝ
離別の酒を酌みかはし
わかれのうたにほゝゑまん
そして別れを色々経験すると、森繁御本人のこの詩も
胸に染み入るのである。